2015年09月09日

逸脱例への着目

インタビューを行い、質的調査の分析を行った研究を基に、平易で読みやすい本にしたという一冊を読んだ。テーマは、がんの寛解。

『がんが自然に治る生き方』ケリー・ターナー著 長田美穂訳 
本;『Radical Remission』(Kelly A Turner)
研究論文;Spontaneous/Radical Remission of Cancer: Transpersonal Results from a Grounded Theory Study (Kelly A Turner)

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著者ケリー・ターナーは、がん専門病院で患者のカウンセラーをしていたときに、Andrew Weil著『癒す心、治す力ー自発的治癒とは何か』を読んで、<進行がんと診断され医者から治療の方法がないとして自宅に戻された患者が寛解した>という症例を知って、衝撃を受ける。
これを出発点として、がんの寛解について調べてみると、寛解の症例報告はあるものの、寛解者本人と代替療法の治療者の考え(意見)を含む研究はなく、がんの寛解という事例は「逸脱」として医師から黙殺されているようにみえた。
ターナーはこう考えた<アレクサンダー・フレミングがペニシリンを発見したのも、「逸脱」した現象に目を向けたからで、自分も標準から逸脱した事象を無視することなく、詳細に検討していこう>と。

がん治療で使われる言葉に「標準治療」という言葉があるが、これは<科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療>をいう。(国立がん研究センターがん対策情報センターのがん情報サービスによる)
*http://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/hyojunchiryo.html

「標準治療」とはいかにも信頼できる治療に聞こえる一方で、それだけを行うという姿勢からは新しい発見はしにくく、新しい発見は「逸脱」を検討するところにあるのではないか、という著者の考え方はもっともだと思えた。
発見は「逸脱」を検討するところにある、これは質的調査に共通するところでもあり納得のいくことだった。

ラベル:定性調査
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2015年09月03日

飛躍する考え

9月1日から3日に第17回日本感性工学会大会が文化学園を会場に行われた。
豊富なプログラムの中に坂部三樹郎さんの特別講演「ファッションデザインと感性」があり、若いデザイナーの坂部さんが感性についてどう捉えているかと関心を持った。
坂部さんはアントワープ王立美術アカデミーを主席で卒業して話題になった人。アントワープ王立美術アカデミーは90年年代に「アントワープの6人」が脚光を浴びてからファッションデザイナーを輩出する有名校になったが、もともと伝統のある芸術学校で、かつて短期間、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホも在籍したといわれる。
 私は90年代後半にベルギー国内でフランドル絵画を見る旅行をしたことがあり、アントワープの著名な女性シェフのレストランで食事をしていたところ、隣席に着いたのが王立美術アカデミーの教授陣だった。その時に見たおしゃれな雰囲気は強く印象に残っている。
伝統と斬新なものがミックスしているのが魅力的なアントワープで学んだ坂部さんが、ファッションと感性についてどんな捉え方をしているのか話を聞くのが楽しみだった。

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話を聞いて良かったと思ったことは2点あった。
ひとつは、「ファッションはその時その瞬間を感覚で捉えるもの」という考え。
これは作り手と着る側のどちらから見てもそうだと思えた。
カール・ラガーフェルドはファッションに一番大切なものは何か?と聞かれて、「フレッシュさ」と答えたそうで、これを坂部さんは「新しいとは違う、その場で感じるもの。直感。」と表現した。
もうひとつは、「ファッションは論理通りにはいかない」という点で、コンセプト通りに進めれば進めるほど、面白いからは離れていく、ということ。
ファッションでは、コレクションの発表のために大人数が共同作業で膨大な時間をかけて準備するが、ショーが始まる直前に、デザイナーが作品にハサミを入れて、ラインを変えてしまう、ということが起きるのはここに理由がある、ということ。
これはファッションに限らず、モノ、コト作りに共通したことと思えた。

感覚で捉える直感を大切にするということ、論理性からの飛躍が必要という点は、まさに「イノベーションを起こすには分析的だけではない飛躍が必要」ということと共通していて、興味深かった。

posted by ラパンアジルblog at 15:59 | TrackBack(0) | イノベーション | 更新情報をチェックする